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第八夜 スタジオの外へ

    この頃はまさに前途洋々でしたね
    この頃はまさに前途洋々でしたね

アルバムの曲を録り終えるとエンジニアのエメリックは愛用の煙草【エヴェレスト】に因んでこの傑作のジャケ写を撮りにヒマラヤ山脈に登ろうとビートルズに持ちかけたが、ポールがその間抜けなアイデアをさえぎって、みんなでEMIスタジオの外へ出てみた。横断歩道を渡るようすを撮影し、結果このアルバムにはアビィ・ロードというタイトルが付いた。色んな記述を読んだけど、4人はアイドルだったビートルズがこれで解散した事はまず間違いない。おのおの四つの道を歩き出したのだった。

 

ジョン・レノンの横顔は(無造作な長い髪で)ほとんどが隠されている。リンゴもジョージも髭がじゃまして読み取れない。ポールは夏の熱い歩道で裸足になり(何がしたいのか不明)のちのち死人と見なされる。彼らはおしなべて無表情で覇気は無くつまらなそうに見えた。ただウェストミンスターアビィ(寺院)へ続く整えられた街路が消失点をくっきりと際立たせていた。

 

 1969年。絶大な人気と責任と連帯から彼らは解放される。それだけの重荷を下ろした虚脱感、或いは安堵感そして少しの達成感を残して。4人のうつろな視線の先には果てしなく茫洋とした未来だけが横たわっている。

 

追記 ジャケットの裏面、ソニー・クラークの名盤【クール・ストラッティン】へのオマージュ?と気になったけれども、内容にジャズやブラックミュージックへの接近が感じられず、きっとこちらの思い過ごしなんだろうけども今作リリースの二週間後、まるでジャズの即興をかたどるような鬼気迫る演奏と音の洪水を吹き込んだ【クリムゾン・キングの宮殿】というけったいなアルバムが世に出てしまう。