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第七夜 深緑色の危機

 

長いこと自分にとって【危機】は【霊峰富士】だった。

同じイエスでもラウンドアバウトシベリアン・カートゥルなどはすんなり入ってきた。しかしClose To The Edgeには邦題「危機」と言わしめるなにか暗く果てしない樹海のような深淵さが見える。なおも安易に足を踏み入れることなかれと警告を受けそうな気がしたものだ。

理由としては、レコードの両面合わせても3曲しか収録されていない事と、ジャケット一面を鬱蒼とした森の緑と墨を流し込んだようなグラデーションで染め上げたロジャー・ディーンの見事な美意識にあると思う。

ロジャー・ディーン初登場である。七回目にしてやっと。

源泉から湧き出る清流のようなyesのロゴも彼が考案。幼少期をトルコや東アジアで過ごし東方文化に親しんでいたせいか、浮世絵などの構図に影響を受けた作品も見受けられる。既に紹介したキーフ、ヒプノシスと並んで日本でもファンの多いデザイナーである。後年落ちものパズルテトリスのタイトルロゴも手掛けたが、70年頃の彼は6人目のメンバーと目されるほどイエスの音楽や文学と混然一体とした幻想的なアートワークを展開した。 詩を抽象化し、演奏ではを物語性のある展開を持たせたプログレッシヴ時代に歓迎されたのもうなずける。若いときは前作こわれもののデザインのほうが美しく気に入っていたが、最近はこの危機の深緑色から墨色への流動的な【わからなさ】を受け入れるほど年をとったと言えるかも知れない。