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私の好きな洋楽三十六歌仙 令和改訂版③

21.トッド・ラングレン

賛否両論、というかこちらは殆ど理解できなかったインタラクティヴ・ミュージックの普及がもう一つ進んでいないお陰か、トッド氏は今も元気みたいです。黎明期から歌手としてもプロデューサーとしても数限りないヒット曲を世に出してきたが、1995年の誰でも扱えるようになったパソコンと同時期にリリースされたジ・インディヴィジュアリストは思い出深い。魔術師と呼ばれる所以で打ち込みや自宅録音など元来イノベーションに抵抗感のない男だが、ラストのウーマンズ・ワールドではユートピア幻想の崩壊を嘆く男の叫びなのか。

 

22.トム・ジョーンズ

良い歌なら絶対に自分のものにしてみせるタイプの歌手。

 

23.ナタリー・コール

彼女のLOVEアヴァロンを聴くと、他を圧倒する歌唱力を誇るチャカ・カーンやホイットニーとはまた違った良さを再発見できる。もう少し聴いていたい歌手だったが既にこの世にはいない。初冬はアンフォゲッタブルで在りし日の彼女を偲ぶことに。

 

24.ピーター・クリス

KISSで好きな曲を挙げると ベスそしてハードラック・ウーマンなので、結局このキャットメイクのドラマーのハスキー声が気に入りなんだろうな~

 

25.フレディ・マーキュリー

死してなお幽体ごとクイーンに君臨し続け、近年の映画『ボヘミアン・ラプソディ』にて冷凍睡眠から甦り、世界から歓迎と祝福を受けたのは誰もが知るところだろう。思うに彼の歌唱には魂がそうさせるのか人間賛歌のおもむきを感じる。イニュエンドウ リヴ・フォーエヴァー レディオ・ガ・ガ などが収められているベストアルバム、グレイテスト・ヒッツⅡをぜひ。

 

26.ボズ・バレル

射手座三裂星雲の写真が印象的なアイランズ。キング・クリムゾンのヴォーカルを務めた期間は短いものだったが、その波間に漂う小舟の如き頼りなさげな歌いまわしは何故かいつまでも心に残る。後にバッド・カンパニーに加入しベーシストに専念するのだけれど、アイランズの特にタイトル曲は彼にしか歌えないものがある。

 

27.マーク・ファーナー

アメリカ大陸は広い。この当たり前過ぎるパラダイムを、グランド・ファンク・レイルロードにおけるファーナーの歌唱力と華やかで艶やかなりし美声を前にして実感しない訳にゆかない。トッド・ラングレンのプロデュースによるアメリカン・バンドやオールディーズカヴァーのロコモーションもポップでダイナミックだが、やはり最高に脂ののったヴォーカルを堪能するならハートブレイカー

 

28.マーク・ボラン

ロック界の魔法使い(ウィザード)との呼び名にふさわしい何ともつかみ所の無い歌手だった。魔術師ではなくグラマラスな魔法使いというところがね。キラ☆キラのブギーなホット・ラヴゲットイットオン、颯爽とジルバの恋ジャイヴでいこうマジカルムーンはソフトだがジャングルビート。かと思えば、むしろルンバのリズムで物憂げなマンボ・サン、強烈なダンスビートを散りばめながら真っ暗闇の中で煌々と羽ばたいてフッと消えていった。

 

29.マイケル・デ・バレス

そんなマーク・ボランが(故人ではあるものの)知識として入ってきた84年頃だったろうか、デュラン・デュランのジョン・テイラーとアンディ・テイラーが元シックのトニー・トンプソン、歌手のロバート・パーマーらと共に結成したザ・パワー・ステーションが件のゲットイットオンをリヴァイヴァルヒットさせ、流れはそのままライヴ・エイドへ。そんな彼らの登場を楽しみにしていた・・・のだが、ステージに上がっていたのはロバート・パーマーではなく、ルックスも声も全く違うマイケル・デ・バレスその人。はっきり言って第一印象は「誰?」あれから数十年。よくよく調べると70年代にシルヴァーヘッド、ディテクティヴでも歌っているれっきとしたヴォーカリストである事と、特にディテクティヴにはイエス創成期のキーボーディスト、トニー・ケイもいた事が分かった。ライヴ・エイドの違和感だけで判断してしまうのは勿体ない。リコグニッション ナイチンゲールなど巧さの光る曲はファーストアルバムディテクティヴで再確認できる。

 

30.ミック・ロンソン

そのギターの音は鈍色の光を放つ刀剣のよう。グラム期のボウイを支えた懐刀と評されるのも頷ける。歌唱のほうはイタリア歌謡、カンツォーネ風な甘さとニーノ・ロータを思わせる悲哀。チェリストになるのが夢だった。インストの十番街の殺人を薦めたいが、ギターもヴォーカルも堪能すべくラヴ・ミー・テンダーを。エルヴィスを知らなくても大丈夫。しかしながら生前出したソロアルバムは僅か2枚というのが・・・。十番街の殺人 プレイ・ドント・ウォーリー

 

31.モーリス・ホワイト

ソロではラヴ・バラード アイ・ニード・ユーも巧みに歌いこなす不世出の歌手だった。多芸多才過ぎるバンドマスターっぷりが目立って見落としがちだけども。ジャズグループ、ラムゼイ・ルイス・トリオのドラマーを経て、ジャズをより前進させブラックミュージックの新しいスタイルを追究するに立ち上げたアースウィンド&ファイアーでのイメージ戦略の巧みさ。古代文明、太陽神、無限の宇宙。ジャケットデザイナーに長岡秀星を起用したのもプログレッシヴな試みであった。80年代にレッツ・グルーヴがヒットするも、何故か我が町のラジオ電話リクエスト番組でニューヨーク・シティ・セレナーデに勝てなかった惜しい記憶がある。しかし改めて聴くとイントロのヴォコーダーのフレーズがそのまま通奏低音として華やかなベイリーの歌メロやブラスセクションを牽引したり、リズムを自ら掌握するモーリスのまさにグルーヴを加減しながらの展開が心地良い。技巧的なのに心地良くて感服する。歌詞の通りボーイング747の優雅なる旋回に身を任せるかの如き爽快感。

太陽神 天空の女神

 

32.レイ・デイヴィス 

キンクスというと、有名過ぎるフレーズのユー・リアリー・ガット・ミーオール・デイ・アンド・オール・オブ・ザ・ナイト(ドアズのハローアイラヴユーともいう)がどうしても浮かびがちですが、何といってもアルバムサムシングエルス ウォータールー・サンセットの音像とレイの歌唱が見事なのを忘れてはいけない気がします。

 

33.ロジャー・テイラー

後に聖歌隊出身であると知り、なるほどスクワイア隊長(7番を参照)とオーヴァーラップするものがある。フレディも分かっていたのさ。ジョンにはクリス、小田さんには鈴木さんというハーモニーの綾が。ロジャーがあそこまで歌わなければ、ボヘミアン・ラプソディオペラ座の夜も埋もれていたのかも知れない。

 

34.ロッド・スチュワート

22番トム・ジョーンズに勝るとも劣らない歌手と言える。そしてスコットランド系特有の唄ごころとハスキーヴォイス。時に名盤大西洋横断の中からイッツ・ノット・ザスポットライトを聴き直すたびに、いつか浅草キッドをカヴァーしそうで冷や冷やする。

 

35.ロバータ・フラック 

数少ない好きな女性歌手の一人。あのカーメン・マクレエを少々儚げにした感じのヴォーカル。ジェシーなどはジョーン・バエズや作者のジャニス・イアンよりも物悲しい。優しく歌っても収められているアルバムから入るも良し。物悲しくも凛として・・・彼女は弾き語りも良いのだ。

 

36.ダン・マッカファーティ 

五十音順につづってきた三十六歌仙令和版だけれども、最後にどうしても割り込ませてしまったナザレスのヴォーカル。でもダン・マッカファーティってヤードバーズの人でルネッサンスを結成した人でしょ。いやそれはジム・マッカーティです。物憂い時、つまんない時、息苦しい時にマリス・イン・ワンダーランドの一曲目ホリディを聴いてごらんなさい。目の前に開けた大空と昼間の虹。ご意見無用の快唱です。